「ソーシャルが業界を変える」とはこういうことだったのだ。

『5年後、すべての産業はソーシャル的に見直されるだろう。

すべての産業は作り変えられるのだ』

2010年にマーク・ザッカーバーグがファイナンシャルタイムスのインタビューで語った言葉だ。

この言葉、なんとなくわかるのだが、正直に言うと「ソーシャル的に見直す」という意味が今ひとつピンとこなかった。

すべての業界は変わっていく、と言いつつも、まだ具体例は見ていない。

 

しかし今回渡米し、世界最大オンライン旅行代理店「エクスペディア」で

社長 Scott Durchslag氏(以下スコット)から直接ビジョンを聞く機会に恵まれ、

やっとそれが腑に落ちた。

エクスペディアは、マイクロソフト社の部門として1996年にスタート、1999年にスピンオフし、

現在はHoetls.comやTripadvisorなど複数の旅行ブランドを持っている巨大企業だ。

 

エクスペディアは本当にソーシャルな企業である。

ソーシャル活用というと、FacebookページやTwitterアカウントを持ち、

マーケティングやカスタマーサービスに使うというのが一般的。

エクスペディアも、もちろんそれは行っているが、

それだけのレベルではなく、

ソーシャルのパワーがビジネスのコアな部分に組み込まれているのである。

 

スコット曰く、15年目を迎える同社は今、「3段階目」にいると言う。

一段階目は創業期。1999年頃は「インターネットに情報を入れる」だけだった。

二段階目は「検索」。オンラインで情報を探したり、情報交換をすることができるようになった。

そして今、第三段階は、これまでとは根本的に違う変化が起きた。

これまでは、ユーザーは自分から旅行情報を探しにサイトにアクセスをした。

しかし第三段階はその逆で、

旅行情報のほうからユーザーにやって来る。しかも、そのユーザーに最適化された情報だ。

 

「情報のほうからこちらにやってくる」という思想は、Facebookと同じだ。

Facebookでは、ユーザーはログインするだけで、様々な情報がもたらされる。

エクスペディアはこれまで15年間の膨大な旅行者データを持っている。

その分析によって、

よりパーソナライズされ、より関連性のある情報をユーザーに提供することで、

旅行者が「パーフェクトな旅」ができることを目指す。

 

スコットが語ったビジョン「Expedia Everywhere(いたるところにエクスペディアを)」。

内容はこうだ。

・予約エンジン(エクスペディアだけですべて完結できる迅速でスマートなエンジン)
・モバイル(スマートフォン、タブレットのアプリ)
・ソーシャル(Facebookインテグレーション、シェアリング)
・プレイスマーケット(旅行情報交換)
・ロイヤリティ(ポイントシステム)

この5つがエコシステムとなって、ぐるぐる回る構造になっている。

このシステムの動力となるスーパーチャージャーが、モバイル、そしてソーシャルだ。

 

特にモバイルの話は驚く。

スコットの個人的な予測では、

数年のうちに取引の半数以上がスマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスからになるということ。

すべての旅行者がポケットに入れているモバイルは、

旅行者にとって「リモートコントロール」「レシーバー」「トランスミッター」の役割となる。

たとえば、空港に向かう旅行者に「便が遅れています。あせらないで」と告げる。

3時間空港で時間つぶしをしなければならない旅行者に、

「あなたのような人は、ここから600フィート離れたスポーツバーで楽しむことが多いですよ」と薦める。

現地のアクティビティを考えている人に、

「ヘリコプターツアーはどうですか。5番出口から、10分で送迎バンが来ます」と情報を与える。

もちろん旅程も確認できる。

モバイルによって質の高いカスタマーサービスが実現するのである。

リリースしたばかりのエクスペディアの「ホテル予約アプリ」のデモを見たが、

GPSを利用して、今いる場所の近くのホテルが写真、割引情報、ロケーション、詳細を確認できて、

その場でわずか4タップで予約ができる便利なものだ。

そしてソーシャル。

エクスペディアにとってソーシャルはさらに重要なスーパーチャージャーだ。

そもそも、旅行はソーシャルなもの。

旅行者は、旅の写真、動画、現地の情報などををシェアする。

Facebookとのインテグレートによってそれがさらにパワフルになる。

現在、55〜80%が旅行をプランする前に、友達の情報を参考にしているという。

シェアされた旅の情報で、ユーザーはあそこに行きたい、このホテルに泊まりたいと夢見る。

エクスペディアで旅のプランを立て(ドラッグアンドドロップでプランが立てられるようになる)

予約をして、現地に行き楽しむ。

そのことを友達にシェアをする。

そのシェアがまた、人の夢を誘う。

Dream→Plan→ Book→ Enjoy→ Share

無限に広がるバイラルループとなる。

最新テクノロジーと、ソーシャルパワー、

そして何より、スコット始めエグゼクティブはみな旅行を愛するトラベラー。

「ユーザー視点」に徹しているからこそ生まれた新しいモデルなのだ。

 

オフラインの旅行代理店とはかけ離れた世界。

「ソーシャルによって業界が変わる」とは、こういうことだったのである。

旅行業界はエクスペディアが先鞭を切った。

次はどの業界で変革が起きるのだろうか。


エクスペディアのプレジデント、Scott Durchslag氏(右)とマーケティングSVP David Doctorow氏(左)

【追記】
Dream→Plan→ Book→ Enjoy→ Share

このバイラルループは自分のビジネスに応用できるのではないか、というコメントをたくさんいただいた。

どの業界でも(BtoBでも)、十分に応用できるものだと思う。

ただし、「シェア」がなければループは起きない。

そしてシェアを引き起こすのがEnjoy。楽しさ、満足度であるということだ。

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