福島の日本酒、海外市場での大きな可能性  〜オックスフォード大学での福島の日本酒PRイベント参加レポート

※福島民友新聞への寄稿文です。同紙には4月4日、後半部分が「オピニオン」欄に掲載されました。

震災5年目の区切りの日を迎えようとする3月10日、私は英オックスフォード大学で行われた日本酒イベントに参加していました。「オックスフォード・ミーツ・フクシマ」と名付けられたこのイベントは、同大の日本研究サークル、日本酒の普及活動団体「酒サムライ」、福島県人会「ロンドンしゃくなげ会」などが主催したものです。前半では日本酒のミニセミナー、後半には日本酒テイスティングを兼ねた交流会という構成で行われ、同じく福島市から参加した高校生など6名による日本舞踊、そして今回日本酒を提供してくださった喜多方市の大和川酒蔵店の佐藤和典社長が挨拶を行いました。

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大和川酒造店の佐藤社長

会場となったセント・ヒューズ・カレッジの講堂には定員を大きく上回る130名以上の学生や大学関係者が集まり、立ち見が出るほどの盛況。後半の交流会ではカウンター前に行列ができ、大吟醸酒など数十本のお酒は時間前になくなりました。
「美味しい」「フルーティ」といった感想をあちこちで聞いたほか、熱心に質問をする人、ラベルの写真を撮影する人、銘柄をメモする人、飲み終えた瓶を記念に持って帰る人などもいて、日本酒への関心の高さに驚きました。アウンサンスーチー女史も卒業した由緒ある学びの場で、たくさんの未来のリーダーたちが福島の日本酒と出会う瞬間に立ち会えたことは光栄でした。

今回の渡英のきっかけとなったのは、酒サムライのロンドン代表で、在英25年の日本酒プロモーター吉武理恵さんを訪ねてのことです。昨年、ほまれ酒造がインターナショナルワインチャレンジ(IWC)のサケ部門で世界チャンピオンとなり大きな話題となりましたが、吉武さんはまさにそのIWCにサケ部門を設置する際に尽力された方です。

福島県が企画し、私が制作をさせていただいた海外向け日本酒PR動画「サケ・ワンダーランド・フクシマ」にナビゲーターとしてご出演いただき、昨年暮れには県内の酒蔵を一緒に回りました。吉武さんから震災ウィークに英国で行われるいくつかのイベントで福島の日本酒を紹介するということを聞き、何かお手伝いができないかと思い切って自費で渡英したのです。

裏方での参加のつもりが、渡英1週間前になり「熊坂さん、セミナーの冒頭部分で福島の現状をお話してください」という大きな課題をいただきました。10分の持ち時間で、私が取り組んでいる福島のPR動画活動のことに加え、福島がいまどういう状況にあるかを皆さんにお話するというものです。

福島県庁に問合せ、復興状況の最新資料を入手し、安全性と風評被害について触れたスピーチ原稿を作り、つたない英語でしたがなんとかお話することができました。日頃は放射線について特に意識をしていない私ですが、一歩国外に出れば福島の代表として見られます。専門外などと言っていられないのだと感じました。

スピーチ最後には「今は日本酒をテーマに動画を作っています。福島のお酒はとても美味しくて、私は夕食時に毎日飲んでいます」というくだりで笑いを取り、ほっとしました。

昨年、日本酒鑑評会で福島県が3年連続最多金賞受賞したことで、福島産の酒の品質は誰もが認めるところとなりました。しかし知名度となると国内ですらまだまだというのが現状です。これから国内、そして海外市場でシェアを取っていくことは、日本酒業界のみならず、福島の復興にとっても大きな課題となっています。そこで、今回の渡英で見聞きした海外市場の現状や売り方について私なりに感じたことをまとめました。

1)日本酒はすべて高級酒である
オックスフォードの日本人留学生の皆さんが「日本酒を飲みたいけど高くてとても買えない」と口々に言うので価格を聞いて驚きました。国内で720ml 千円の本醸造酒がロンドンだと四千円だというのです。他のヨーロッパの国でもほぼ同じ価格とのこと。税金に加え、温度管理が重要な日本酒は冷蔵での輸送が必須のため輸送コストがかさみます。さらに、本格的な寿司屋や和食店などで飲む場合は十倍になります。つまり日本で千円の手頃なお酒が現地では一万円の高級酒なのです。三千円の大吟醸酒なら販売価格は一万二千円、飲食店では三万円で供されます。和食にも合う安くて美味しいワインがたくさんある中、それだけのお金を出して日本酒を選ぶ人は限られます。まず日本酒の価値を理解している人、なおかつそれだけの金額を食事代のほかに払える人ということになります。つまり海外において日本酒は富裕層向けの商品であり、海外で日本酒を売るということは、日本の高級フランス料理店で数万円のワインが消費されている状況をイメージする必要があるということです。居酒屋などで誰もが手軽に大吟醸酒が飲める日本とは全く違うため、私自身目からウロコでした。ある意味意識改革が求められ。決してハードルは低くないと感じました。ただ、日本におけるこれまでのワイン市場の成長を考えれば、それと同じことがいま海外で起きているとすれば大きなチャンスでしょう。今まさに他県に先駆けて福島の酒を海外市場にアピールすべきタイミングなのではないでしょうか。

2)酒蔵の映像で日本酒の価値を伝える
オックスフォードでは大人気だった日本酒ですが、実は、その翌日に参加した日本大使館での震災イベントでは状況が全く違いました。ドリンクコーナーで来客の皆様に福島のお酒をふるまったのですが、こちらからお薦めして手にとってもらうという状況でした。確かに、昼間だったことや隣にシャンパンコーナーがあったことなど前日とは条件は違いましたが、私は「映像の力」に依るものが大きかったのではと思いました。オックスフォードでは、吉武さんによるお酒に関する基礎セミナーのあと完成したばかりの動画「サケ・ワンダーランド・フクシマ」を上映したのです。吉武さんが福島の酒蔵を訪問して蔵内を見学し、社長の話を聞きながら試飲をする様子を納めたこの動画を、参加者はみな食い入るように見てくれていました。終了後は拍手が起き、そのあと試飲タイムとなり人が押し寄せたのです。

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おそらく、酒蔵、原料の米、酒造りの様子など初めて見る方がほとんどで、映像によってそれが具体的にイメージできたために大きな関心を持って頂けたのだと思います。一方、大使館イベントでは動画は上映せず、日本酒に関する解説もなく、ワインやシャンパンと同列に並んでいました。高級品である日本酒を広めていくには、まずその価値を感じてもらうところから始まります。価値を伝えるために映像は大いに活用すべきであると確信しました。

3)「日本酒キャラバン」の可能性
日本酒に関心はあっても実際に飲んだことがある人はまだまだごくわずかで、ほとんどの人は知識も情報もないというのが海外市場の現実です。そういう意味で、「日本酒ミニセミナー+動画+試飲会」という今回のイベントの流れ、つまり「頭で酒を理解し、酒づくりの現場をイメージし、実際に味わってみる」という体感型のイベントは普及のためにとても有効だと感じました。こういった「福島の酒キャラバン」を各地で行い、SNSで発信をしつつ酒販店、飲食店などへの営業も合わせて行っていけば、時間はかかるかもしれませんが確実に福島の日本酒の認知度が増していくでしょう。その実現には、吉武さんのような現地のネットワークを持つプロの力を借りる必要があります。

しかし問題は、すぐに売上に直結しないPRイベントに誰がお金を出すかです。実は今回のオックスフォードも、お酒の提供こそあったものの、会場でかかったグラス等の経費は吉武さんの会社の持ち出しであると聞きました。また、福島に関するイベントには常に全面協力をしている福島県人会の満山喜郎会長も、いつもポケットマネーでの活動と聞いています。

これだけ効果的なイベントを行うのにそういった皆さんの愛郷心や愛国心に甘えてばかりではいけないと思います。酒蔵が自社の宣伝費として出すべきかもしれませんが、そういった余裕のある酒蔵ばかりではありません。ここはぜひ福島県に予算を出していただけたらと思っています。PR活動は相手が見えないまま一方的に球を投げるだけでは成果に結びつきません。現地の状況がわかる、つまり「球の受け手側」にいる現地の人たちを巻きこむことでキャッチボールが成り立ち、より効果的なPR活動ができるのではないでしょうか。

 「日本酒」が復興の強い力になることを皆が期待しています。そして福島のお酒が世界に通用する価値を持つことを今回この目で見てきました。

あとはよりたくさんの方に広め、売っていくだけです。微力ながら私も動画を通じて今後もPR活動をしていきたいと思っています。